Critical Period Hypothesisその3

3回にわたって女優Yuhoさんのことを取り上げてきましたが、今日はその後日談です。

授業でCritical Period Hypothesisに関する入試問題の英文を読んだあと、私自身、このYuhoさんに興味を抱いたので早速ググってみたのですが(当初、漢字の名前がわからなかったのでYuho Ymashitaで検索しました)、すると以下のような動画がヒットしました。

Billionaire Ransomという(多分)日本未公開の映画からの短いカット版なのですが、2分ほどの動画ですので、一度御覧ください。

この動画を翌週の授業の最初に、何も事前説明をせずに見せたのですが、一人の生徒が「先週の長文に出てきた女優さんですか?」と気づいたので、そうだと伝え、動画を見てどう思ったか感想を聞いてみたのですが、だいたい皆おしなべて「普通の日本人が話している英語とわかる発音だ」とか「海外で活躍している日本人というからもっとネイティブっぽい発音かと思った」などといった感想だったのですが、それをもう少し突き詰めていくと、

「こういう普通の日本人ぽい発音でも海外のドラマや映画に出られると知ってちょっと自信が付きました」

というものでした(^_^;)。

ここ、実はとても大きな気づきだと思うのですね。

ややもすると、もちろん日本も含めて東アジア人は「ネイティヴ」信仰が強い傾向にあるように思うのですが、それがために自身の英語レベル(特に発音)に関してもネイティブ(=日本の場合アメリカ英語)っぽい発音ができないといけないという呪縛にかかっているような気がすごくするわけです。

でもこのYuhoさんもCritical Periodを過ぎたら限界があるよと言ってるように、あまりにそこにこだわりすぎると逆効果しか生まないかなとも思うわけです。

また、イギリスで暮らしてみて初めて痛感したことですが、向こうに行くと当たり前ですがアジア系の顔、アラブ系の顔、アフリカ系の顔をして完全に「ネイティブ」の発音で英語を話す人なんていくらでもいるわけです。つまり、人種的には多様であるものの、国籍はイギリスの人たちですね。そういう人たちはたとえ仮に名前がTaroであったとしても、そのアイデンティティはイギリス人であるわけです。

ここでようやく英語と自身のアイデンティティの問題が出てくるわけで、そういう中身がイギリス人のアジア系、アラブ系、アフリカ系の人たちとは別に、むちゃくちゃ自国の言語のなまりが入った英語を話す中国人 やサウジアラビア人やマラウイ人という人たちもいるわけです。つまりその人達のアイデンティティはイギリス人ではないわけなのですね。

で、それは非常に重要なことなのではないかと向こうで暮らしてみて思ったわけです。確かにDo in Rome as the Romans do.(郷に入れば郷に従え)精神は大切なのですが、何でもかんでもあちらに合わせてしまうと結局それは同化と同じで、「本来あなたは何者だったんですか?」という問題とも大きく絡んでくるように思うわけです。

そういう意味でも外国語習得において守るべきラインというのは、コミュニケーションがちゃんと取れる正確な発音で話せることで、生徒曰く「ペラペラのユーチューバー」みたいな発音ができなくても全然OKだと思うわけです。なぜなら我々の第一言語は日本語であるわけですから。

因みに、件の入試問題の後半に書かれていましたが、非常に訛の強い英語を話す俳優として、シュワルツネッガーやアントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルス(残念ながら現高3生はいずれの俳優も知らず…(-_-;))の名前が上がっていましたが、どの俳優をとっても言ってることを理解する上で障害になることは何もなく、なんなら大半の日本人は上記指名されている3俳優が非常に母国語の訛が強い英語を話すことすら知らず、「ガイジン」ぽい顔をしていると言うただその理由だけで、彼らの映画を見ながら英語の発音練習をしてることすら十分ありえたりするるわけです(^_^;)。ま、そこまで行くと流石にちょっと自虐的でもありますが…。

ま、このあたり、日本の親御さんにはなかなか共感して頂きづらい点であることも重々承知はしているのですが、生真面目な日本人の性格が凶と出るような発音ネイティブ信仰はメリット・デメリットで言うと、デメリットの方が大きいような気もするわけです。

そのあたりも少し念頭に置きつつ、以下の動画を見てもらえたらと思うわけです。

(因みにこれは完全に余談ですが、楽天やソフトバンク、ユニクロの創業者の英語スピーチもネットでググれば簡単に視聴できます。また「英語なんてできて当たり前」とかなり手厳しい大前研一さんの英語も相当母国語の影響を受けた訛が入った英語です。でも、私はそれで全然問題ないと思うわけです。彼らにとって大切なのはネイティブっぽい発音で話せることではなく、英語でこちらの要求or意見を通すor理解させることであるわけですから・・・)