私立の進学校などでも…

英語の授業で率先して洋楽を題材として取り上げている学校が少しずつ増えてきているような印象をここ最近特に感じます。まぁ「今の流れ」に非常に沿った指導だと思うわけですが、特に私立の学校において、です。

こう言うと、「昔から英語の先生は洋楽を題材にしていたやん」と言われる方もいらっしゃるかもしれませんが、もちろんそのことはわかった上で、ちょっと違うニュアンスで最近の動きを感じているわけです。以前であれば、英語の授業中に洋楽を取り入れると言うと、どちらかと言えば公立中学校で、英語に慣れ親しんでもらおうとか、英語アレルギーをなくそうみたいな試みとして、まずは「楽しい」「面白い」というイメージをつけさせるために洋楽を扱う、というような意味合いだったのだと思いますが、今回書いている内容は少しそれとは違います。

とりわけ進学校と呼ばれる学校でもこの動きが少しずつ出てきている感じがするわけです。加えて、我々の世代だとどうしても「英語の授業中に洋楽」と聞くと、ビートルズとかカーペンターズとか、あるいはスタンド・バイ・ミーとか…まぁそんな感じをイメージされる方もいるかもしれませんが、これもちょっと違うわけです。具体的にはJustin BieberとかTaylor Swift、Ed Sheeran等々、最近旬のアーティストの曲が選曲されてるわけです。(ビートルズの大ファンである私が言うのもなんですが、今の中高生に「英語の素材としてビートルズ」はあまりに短絡すぎるというか(-_-;)、まぁ、今の中高生にとってポールはもう下手したら「ひいおじいちゃん」なんで、普通に考えて「カッコイイ」とか「トキメク」存在ではもはやないわけですよ…)

で、進学校でこういうアプローチを取る学校が少しずつ増えてきていることに驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんし、中には「そんなことやってて受験は大丈夫なん?」と不安に思われる保護者の方もいらっしゃるかもしれませんが、個人的にはこれ、凄く良い方向性だと思うわけです。

基本的に、知的好奇心の高い子ほど例外なく洋楽の歌詞はストレスなく興味を持って食いついてきます。また、洋楽は「教育的配慮」といった「大人の事情」なんか一切考慮してくれませんので、まぁ教育的にはちょっとどうかなと思うような内容もお構いなしにガンガン出てきます。つまり「生の英語」(外国語教授法においてはこういうのをauthenticな素材と言ったりして、基本、外国語指導における素材はこういうauthenticなものであるべきだ、というのが国際的なスタンダードではあります)というわけですね。まぁ授業で取り扱う分にはちょっと注意が必要な場合もありますが、完全に「あぶない」ところをとられてしまって無毒化された英語(=全然オモシロない)ではなく、ちょっと危なっかしいところもあるのですが、そういう部分こそが、多分思春期の子供たちは「オモシロイ」と感じるのだと思うわけです。で、「オモシロイ」と感じた子はあとは放っておいても自分でなんやかんや調べたり歌ったりするわけで、そういうことを普段やっていることが何よりも英語力の底力につながるなと思うわけです。

また、生の英語というのは、外国語として英語を学習している人間の英語力など一切考慮してくれないため、こういう英語に頻繁に触れている生徒というのは「温室」で英語を勉強してる生徒とは若干違うわけです。 スラングなんかはまたちょっと特殊なので置いておいたとして、例えば英語の歌詞に結構よく出てくるのは文法的には間違っているが、ネイティブは普通に使っているような英語です。例えばこんな英文…。

I don't need nobody else.

これ、この一文単体であれば、not(−)とnobody(−)という否定語(−)が2つ入っているので、マイナス✕マイナス=強いプラスとなるわけなのですが、洋楽の歌詞では意外とこの「原則」を簡単にやぶってくれたりするわけです(^_^;)。すなわち、本当はプラスの意味なのに、マイナスの意味で歌っているという…。文法的には「他に誰も必要じゃないわけじゃない=必要」という意味であるにも関わらず、歌詞の意味としては「他には誰も要らない=私ひとりで大丈夫」みたいな。

これ、文法でガチガチに勉強してきた子(=頭カタイ子)というのは、文脈無視でそのまま自分の文法解釈を当てはめて誤訳するか、文脈にちょっと意識が行く子は「なんかおかしい」と混乱するかのどちらかなのですが、ま、基本的に間違った文法であってもネイティブが普通に使うことなんていくらでもあるわけで、日本語でも「全然」と来たら文末は普通「ない」で結ぶのが文法的には正しいわけですが、最近は「これ、全然おいしいやん」みたいな表現、普通に言いますよね?それを文法的に間違ってるから教えない、というのがまぁいわゆる温室育ちの英語学習者を育てるわけであるわけです。で、こういう無毒化された英文ばかりに触れている温室育ちの英語学習者はとかく、サバイバルには弱く、イレギュラーな英文が出てくると急にパニクる傾向にあったりするわけです。

一方で「あんまり勉強はしないくせになぜか英語が好きorそこそこできる」子って昔からいたと思うのですが、このパターンの子って小テストとか単語テストみたいな機械的暗記を要求されるものはからきしダメなんですが、実際に英語でコミニュケーションをさせてみたり、あるいはリスニング問題だったり、あるいはそこそこの英文を読ませた際に結構素早く大意把握などができたりするわけです。で、このパターンの子は洋楽を聞いてたりすることが結構ある、というのは英語の先生だったらなんとなく肌感覚で分かってもらえるかと思うわけです。まぁ従来の文法問題や英文和訳みたいな翻訳作業がメインのテストだと点数的にはあまりパッとしないのですが、パッとしない点数の割に英語の授業は楽しそうに受けていて、授業中のやり取りなんかを見ていると決して英語がわかってないわけじゃなく、まぁよく使われる言葉だと「センス」で解いてる、みたいな子ですね。実際こういう子が、学校卒業したあといつの間にか海外に行ってたりとか…。

とまぁ、ここまで書いときながら、洋楽が良さげだからといって、単に生徒に歌わせて終わりではあまり意味がないとも思うわけです。基本的に外国語学習においては「理解できるレベルの内容のインプット」が大量に必要なわけで、その際に使う素材として、洋楽などは生のリアルな英語であるため、その内容を生徒が理解できるのであれば良いわけで、さらにそこにメロディーがついて子供たちも遊び感覚で練習ができるのであれば「なお良し」となるわけです。

繰り返しになりますが、歌詞の意味がわかってなくて単に英語の歌詞を100回歌ったところでそれは英語力の向上という点ではあまり効果は出ないだろうと思うわけです。